講演録

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土井淑平 講演
「アメリカの世界支配と対米従属からの脱却
― イラク戦争と金融危機の衝撃を受けて ― 」

目次

 

一 9・11事件とアフガン・イラク戦争

 1 「真珠湾攻撃にも似た破局的な触媒となる事件」

 周知のように、アフガン戦争とイラク戦争のきっかけとなったのは、2001年9月11日のいわゆる米中枢同時多発事件です。この事件は9・11テロとか米中枢同時多発テロとも言われますが、わたしはこの事件にはブッシュ政権の背後勢力の自作自演か間接関与の疑いがあると考えるので、「テロ」ではなく「事件」と呼ぶことにします。
まず、9・11事件については、ブッシュ政権の背後勢力が9・11を予告するような報告を出していたのは、注目すべきことです。すなわち、この9・11事件の2年前に、新保守主義(ネオコンサーバティブ、略してネオコン)の政策理論集団「アメリカの新世紀プロジェクト」(PNAC)が、イラクへの軍事侵攻を国際的にも国内的にも容認できるものとするためには、「真珠湾攻撃にも似た破局的な触媒となる事件」が必要だと主張していたのです。
なぜ、アメリカはイラクへの軍事侵攻を狙ったか。イラクの石油資源はサウジアラビアに次いで世界第2位ですが、アメリカのエネルギー省はイラクの未発見の石油埋蔵量はアメリカの石油輸入量の98年分とソロバンをはじいていて、これがノドから手が出るほど欲しかったのです。
あにはからんや、ネオコンのシナリオ通り9・11事件が発生した!9・11事件は数多くの不可解な状況証拠からして、アメリカ政府の共犯説や謀略説が取り沙汰されている事件です。かりに政府の直接関与はなくとも、アメリカの新保守主義者や軍産複合体などブッシュ政権の背後勢力による自作自演か間接関与の可能性があるのみならず、ブッシュ政権の中枢も事前に知りながら、これを黙認した疑いも消えません。
たとえば、①ハイジャック機は通常の対応がとられていたら、ニューヨークの世界貿易センタービルやワシントンのペンタゴンなど、標的に到達する以前に撃墜できたはずだ②世界貿易センタービルは航空機の衝突では崩壊しない、ビル内に仕掛けられた爆薬で爆破・解体されたのではないか③ペンタゴンに航空機が激突したという痕跡や物的証拠はなく、むしろ軍用ミサイルによって激突されたのではないか④なぜアメリカの政府高官はFBI捜査員の警告を無視し、9・11の事前も事後も捜査を妨害したのか ― など不可解な事実がいくつもあります。
つね日頃、本土に侵入するものの撃退を至上命令として、やれ「スターウォーズ計画」だ「ミサイル防衛開発」だと騒ぎ立てるアメリカの防空システムが、9・11当日、小さな目に見えにくい超スピードの大陸間弾道弾とは明らかに違う、つまり図体のでかいハイジャック機にまったく対応できず、なすがままにニューヨークとワシントンへの突入を許しています。
これでは、笑うに笑えない。米軍の本土防衛はまことにズサンで、アタマ隠してシリ隠さずの、“金太郎の腹掛け”みたいなものですね。

 2 金太郎の腹掛けのようなアメリカの本土防衛

 金太郎といってもいまの世代にはピンとこないでしょうが、わたしなんかの子供のころ、「マサカリかついだ金太郎、クマにまたがりお馬の稽古、ハイシドードー、ハイシドードー・・・」、と童謡や昔話に出てきた金太郎つまり坂田金時(さかたのきんとき)のことです。
わたしはカラオケは大嫌いですが、なぜか童謡は口をついて出てきますね。これはトシのせいでしょうか。金太郎つまり金時は、前のお腹は「金」と書いた腹掛けで隠しているけれど、後ろの背中はタスキをかけただけで丸裸というので、“金太郎の腹掛け”というのです。
あの9・11の直後、炭疽菌事件がアメリカ国内で大騒ぎになったのを、ご存知の方はおられますでしょうか。炭疽菌入りの白い粉が郵便で送りつけられ、これはイラクのフセインの仕業だと「フセイン説」なども出る始末で、全米に心理的パニックを引き起こしましたが、何のことはない問題の炭疽菌の出所は米軍だったという、「泥棒を捕らえて見れば我が子なり」を地でいく、語るに落ちた話のオチで終わりました。
実のところ、炭疽菌はフセインの仕業どころか、1980年から1988年のイラン・イラク戦争のさい、ホメイニのイラン・イスラム革命を潰すため、イラクを支援するアメリカがボツリヌス菌ともども炭疽菌を2株ずつイラクに送ったばかりか、イラクの化学兵器の使用を黙認したいわくつきのシロモノだったのです。
つまるところ、9・11事件は炭疽菌事件も含めて、アメリカ政府や背後勢力の謀略の可能性が否定できないということです。アメリカのルーズベルト大統領が真珠湾攻撃を事前に察知しながら、これをあえて見逃し第2次世界大戦に参戦するための口実としたことは知られています。
さかのぼって、1898年の米西戦争の開始を正当化したハバナ港の米戦艦沈没事件から、アメリカがベトナム戦争に介入するきっかけとなった1964年のトンキン湾事件まで、アメリカが戦争突入のために自作自演の謀略を仕組んだ歴史を知る者にとって、9・11事件は謀略の可能性が高い事件だということを繰り返し強調しておきます。
去年の9月にも、共同通信配信で「真相めぐる論争、今も」「学者も数十項目の疑問指摘」という記事を目にしましたが、9・11事件をめぐる疑惑が大手メディアでも公然と語られている例です。これはほんの氷山の一角にすぎず、すでに沢山の出版物やインターネット情報で、もっとくわしく9・11事件の疑惑と検証がなされています。

 3 国際法に違反した無法なアフガン戦争とイラク戦争

 さて、このような疑惑だらけの9・11事件を格好の口実に ― というよりも、待ってましたとばかりに、アメリカは国際世論を無視してアフガン戦争とイラク戦争に突入したのですが、わたしはまずアフガン戦争もイラク戦争も国際法違反の戦争だったということを強調しておきたい。つまり、いずれも不法かつ不正な侵略戦争だということです。
わたしはこんどの新著で、16世紀のスペインの神学者ビトリアによるアメリカ新大陸の征服戦争批判に端を発し、17世紀のオランダの法学者フーゴー・グロティウスの大著『戦争と平和の法』を経て、近代国際法が誕生していく経緯についても書きましたが、国際法はいわば国際社会のルールで、これなくして国際社会の秩序は保てない。
まず、アフガン戦争は、①テロ集団の犯罪は国際法上の自衛権の発動を可能とする武力攻撃ではない②国連の安全保障理事会はアフガニスタンへの武力攻撃を許可していない ― の2点の理由からして国際法違反の戦争と言えます。つまり、タリバン支配下のアフガニスタンが国家としてアメリカに攻撃を仕掛けたわけではない、ということです。
他方、イラク戦争について見ますと、国連憲章は2つの例外を除いて武力行使を禁止しています。すなわち、①武力攻撃に対する個別的または集団的な自衛権の行使の場合(第51条)②安保理理事会の決定による軍事的強制措置の場合(第42条) ― の2つですが、イラク戦争はこの国連憲章の武力行使禁止原則の2つの例外のいずれにも該当しない、という理由で明白な国際法違反の戦争でした。
これはわたしが勝手に国際法を解釈して言っていることではなく、イラク戦争開戦時の2003年3月に、英仏の著名な大学の国際法学者16人が発表した書簡で公けにされた見解でもあります。日本の国際法の研究者たちも声明で同様の見解を発表しています。
つい最近も、記事1にありますように、ことし1月14日の日本海新聞にブリュッセル発共同電で、オランダの独立調査委員会が「イラク戦争は国際法違反」と結論づけた報告を発表したと伝えています。オランダ政府は米英のイラク侵攻には派兵しませんでしたが、日本と同様に支持を表明し、大規模戦闘終結後の2003年、1100名の治安維持部隊を派遣しましたが、独立調査委員長は「オランダ政府がイラク侵攻の違法性に目をつぶった」と批判しているのです。(記事1)「イラク戦争国際法違反の最近の記事」/出典:『日本海新聞』(2010年1月14日)のブリュッセル発共同電「イラク戦争国際法違反」、並びに、『日本海新聞』(2010年1月28日)のロンドン発共同電「イラク戦争国際法違反」
さらに、つい10日前の1月28日の日本海新聞には、当時のイギリス外務省の法務部門幹部のマイケル・ウッドが、イラク侵攻は「国際法違反」との判断を外相だったストロー(現在は司法相)に伝えていた、とのロンドン発共同伝が載っています。このように、イラク戦争が国際法違反の侵略戦争だたっという歴史的は事実は、いまだにホットな国際社会の話題なのです。(同上)
いずれも小さい記事ですが、わたしは重要なニュースと考えます。要するに、アメリカとイギリスはそれと知りながら、公然と国際法を踏みにじり、国際社会のルールと秩序を破壊してまで、アフガン戦争やイラク戦争を強行したということです。こういう無茶苦茶な戦争を平然とやりながら、よくアメリカは正義だとか法と秩序を口にできたものですね。実際、アメリカは“世界の警察官”どころか“世界の大強盗”というほかありません。
ここで、ちょっと、イラク戦争を強行した前大統領のブッシュを寸評しておきますと、アメリカの言語学者で反体制知識人のノーム・チョムスキーは、「(ブッシュは)頭は鈍いが、政治的には抜け目がない」と言っています。 ブッシュは一応、イェール大学の卒業となっていますが、この大統領の口からよく意味不明の発言症候群が出るので、成人レベルの読み書きの能力があるかどうか疑う人もいるようです。そのブッシュの発言の一例ですが、アメリカを訪れたイギリスの子どもたちに、「ホワイトハウスはどんなところですか」と聞かれて、「白いよ」と答えたそうです。たしかに白いでしょうね。
マイケル・ムーアの本を読むと、ブッシュには過去に飲酒運転・悪ふざけの窃盗行為・フットボール場での治安紊乱行為の3回の逮捕歴がある、というくだりが出てきます。 英語で「繁み」のことを「ブッシュ」と言いますが、ブッシュはこの繁みから出て来て、にわか仕立てで大統領になりましたが、実際には副大統領だったチェイニーが本当の大統領で、大統領のブッシュは副大統領と皮肉られたものです。

 4 アメリカの新軍事戦略の最新版としての“テロとの戦い”

 ブッシュ大統領は9・11事件の直後、「十字軍」とか「永遠の正義」なる言葉で、“テロとの戦い”をぶち上げました。たぶん側近に注意されて、「十字軍」という言葉はすぐ引っ込めたものの、ブッシュにとって“テロとの戦い”は“新十字軍戦争”の意味合いを持つもので、キリスト教原理主義にかぶれたブッシュのホンネをついつい露出しています。
実際、ブッシュ政権の幹部は聖書根本主義派と呼ばれるキリスト教原理主義の影響を受けていて、この聖書根本主義の教義によれば、キリストに従う「善の軍勢」が反キリストの「悪の軍勢」と「ハルマゲドン」という最終戦争を行なうことになっていて、現代のシオニズム国家のイスラエルを信仰体系の中心に据えているのだと言う。「ハルマゲドン」というとオウム真理教を思い出させる教義ですね。
この聖書根本主義派に近いのはブッシュはもとより、ブッシュ政権のポール・ウォルフォウィツ国防副長官、ダグラス・フェイス国防次官、ジョン・アシュクロフト司法長官などですが、聖書根本主義派の言う「悪の軍勢」とブッシュの言う「悪の枢軸」がだぶって見えてきますね。
ブッシュ政権の中枢のキリスト教原理主義とイスラエルへの傾斜は、もう一つの事実からもうかがえます。アメリカの新保守主義者たるネオコンのタカ派集団のとりで、ワシントンに拠点のあるユダヤ国家安全保障問題研究所は、ブッシュ政権の副大統領ディック・チェイニー、国防次官のダグラス・フェイス、国務次官のジョン・ボルトンらの活動舞台でもあったということです。
これに加えて、ブッシュの“新十字軍戦争”には、アメリカの政治学者であるサミュエル・ハンチントンの新十字軍思想の宣伝パンフレットとも言える『文明の衝突』の影響があるかも知れません。イスラム文明を西欧最大の危険な敵とみなすハンチントンは、「イスラム諸国や中華文明諸国の通常戦力および非通常戦力の発展を抑制すること」や「他の文明にたいして西欧の技術および軍事力の優位を維持すること」を、「西欧最強の国」である「アメリカ合衆国」の責務だと提案しているのです。(注1)サミュエル・ハンチントン、鈴木主税訳『文明の衝突』(集英社、1998年)
わたしの『アメリカ新大陸の略奪と近代資本主義の誕生』は、ヨーロッパ世界とイスラム世界の歴史的関係にさかのぼって十字軍の意味を考察していますが、7世紀から800年近くもの長きにわたって、ヨーロッパ世界を圧倒する高度な歴史と文化を誇ったイスラム世界に対して、ヨーロッパのキリスト教徒が起こした対イスラムの十字軍戦争は、15世紀末のコロンブスの航海の序曲をなすものでもありました。
ひるがえって、アメリカのいわゆる“テロとの戦い”は、それに10年ほど先立つ1991年の湾岸戦争を正当化した新軍事戦略たる“ごろつき”ドクトリンのニューバージョン版と言ってもよく、3つの意味をもつ戦争であると考えます。第1に、いま見た通りイスラム世界に対する“新十字軍戦争”という性格を秘めた戦争です。第2に、米ソ冷戦終結後の“第2の冷戦”を演出する戦争です。第3に、それはアメリカの“終わりなき戦争”つまり“永久戦争”の序曲をなすものだ、というのがわたしの見方です。この“第2の冷戦”と“終わりなき戦争”の論点については、あとで取り上げて考察するつもりです。

 

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