講演録

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土井淑平 講演
「アメリカの世界支配と対米従属からの脱却
― イラク戦争と金融危機の衝撃を受けて ― 」

目次

 

三 アメリカの世界支配と対米従属からの脱却

 1 アメリカの軍事基地と軍事戦略のあらまし

 アメリカは建国前のイギリスの植民地時代から建国後の合州国時代まで、“300年戦争”とも呼ばれるインディアン戦争で先住民を殺りくし土地を強奪しつつ、ひたすら膨張に次ぐ膨張をとげていった文字通り“戦争中毒”の“戦争国家”です。
わたしの新著『アメリカ新大陸の略奪と近代資本主義の誕生』でも指摘しましたが、その戦争ないしは軍事介入を数え上げると、インディアン戦争が終結した1890年のウーン・デッドニーの虐殺事件から2003年のイラク戦争まで、わずか1世紀余りの間に何と135件にのぼるというデータがあります。つまり、ほとんど毎年どこかで戦争をしているということですね。
アメリカのジャーナリストであるウィリアム・ブルムは、アメリカ政府・米軍・CIAが中南米・中近東・アジアをはじめ世界のいたるところで、大量破壊兵器の使用・全世界の国々への介入・選挙操作・盗聴・拉致と略奪・CIAと麻薬の関係・CIAの下請けのNGOなど、ありとあらゆる手を使って“テロ”というよりも“国家犯罪”を行なっているという、おぞましい“国家犯罪”の数々を具体的に明らかにしています。そのリストの一端を表1で著書の目次からひろって一覧表にしてみます。(表1)「アメリカの国家犯罪の数々」/出典:ウィリアム・ブルム、益岡賢訳『アメリカの国家犯罪全書』(作品社、2003年)
アメリカは文字通り全世界に軍事基地を張り巡らせて、それこそグローバルな監視網と戦争体制をつくり上げています。アメリカの在外軍事基地の推移を表2に示しました。やはり第2次世界大戦直後の1947年とベトナム戦争最中の1967年が圧倒的に多いですね。(表2)「アメリカの在外軍事基地」/出典:ジョン・ベラミー・フォスター、渡辺景子訳『裸の資本主義』(こぶし書房、2009年)
2001年の米国防総省の報告書によれば、アメリカの海外の軍事基地は153カ国の725カ所に及び、その兵員は25万人ということになっていますが、これに民間人や扶養家族を含めると53万人にもなるようです。このデータには2001年のアフガン戦争と2003年のイラク戦争が含まれていませんから、これらを加えると兵員は倍増して50万人を超えると思われます。
のみならず、9・11以後のアフガン戦争とイラク戦争は“テロとの戦い”を口実としつつ、実のところカスピ海とイラクの豊富な石油と天然ガス資源、並びに、そのルートの確保を狙って起こした戦争でして、アメリカはアフガニスタン・パキスタン・キルギスタン・ウズベキスタン・タジキスタン、そして、クウェート・カタール・トルコ・ブルガリアといった、中近東から湾岸にかけてのカスピ海とイラクを囲んだ諸国家に軍事基地を設けました。(もう一度、地図1「中近東と湾岸諸国」参照)。小さくて見にくいですが、アフガニスタンの北側に、キルギスタン・ウズベキスタン・タジキスタンがありますね。

 

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                                   中近東と湾岸諸国

                             
NHKが放映したイギリスの連続ドラマ『ステート・ウィズイン』は(現在、毎週水曜日の9時から衛星11チャンネルで再放送していますが)、スパイものの得意なイギリスの『007』の現代版のようなもので、いま申上げました中近東のキルギスタンが舞台ですが、ロシアの圧力もあってキルギスタン政府がいったん基地の撤去を要求しながら、つい最近アメリカがカネを積んで基地の継続を認めさせたところです。
イラク戦争は“第2の湾岸戦争”とも呼ばれますが、アメリカは1991年 の湾岸戦争ではサウジアラビアに軍事基地を設け、いまも何千人もの米軍を駐屯させています。イスラム教の聖地のある故国が米軍に汚されたことが、アルカイダの頭目とされるウサマ・ビンラディンを激怒させ、今日の反米闘争の重要な動機になったと言われています。
“パクス・アメリカーナ”のアメリカ帝国は、“パクス・ブリタニカ”の大英帝国の後継者で、それゆえ大米帝国とも呼ばれますが、全盛期の大英帝国の版図は地球の陸地の4分の1、人口も世界の人口の4分の1を占めていました。イギリスのヘゲモニーは20世紀初頭には急速に衰退し、そのヘゲモニーを第2次大戦後に引き継いだアメリカは、全世界の100以上の国または地域に軍事基地を置き、文字通り“世界の警察官”として睨みをきかせてきたのです。
米ソ冷戦はアメリカの軍産複合体つまり軍需産業を中心とした産業と政府の複合体を肥大化させ、アメリカ社会を「軍事化」し「兵営国家」にしましたが、冷戦崩壊で一番ショックを受けたのはこのアメリカの軍産複合体でした。アメリカはこの肥大化した軍産複合体をなんとか維持するため、新たな敵を見つけなければなりませんでした。そこでペンタゴンをはじめ軍産複合体の推進者たちによって仕立て上げられた新たな敵が、いわゆる“ごろつきドクトリン”であり“ならずもの国家”だったのです。
まるでアメリカの西部劇における無法者のような命名の仕方ですが、この“ごろつき”ないしは“ならずもの”として名指しされたのが北朝鮮・イラン・イラク・リビア・シリアです。ごていねいにも、アメリカ国防総省つまりペンタゴンの戦略家たちは“ごろつき候補”まで用意していまして、中国・エジプト・インド・パキスタン・韓国・台湾・トルコなどがこの部類に入るというのです。
この新軍事戦略が発表された1990年8月2日は、奇しくもサダム・フセインのイラク軍がクウェートに侵攻した日に当たります。実はクウェートの国境に向かって移動中のイラクの戦車の動向は、アメリカのスパイ衛星によってキャッチされていました。にもかかわらず、当時のブッシュ大統領ははそらとぼけて(このブッシュ大統領というのは、イラク戦争を起こしたブッシュ大統領の父親、つまりパパ・ブッシュ大統領ですが)、わざわざ駐イラク大使にフセインと会談させ、イラクのクウェート侵攻を黙認するようなサインを送りました。
こうして、フセインにクウェートを侵攻させ、これを湾岸戦争の口実としたというのが歴史の真相ですが、この戦争の口実づくりは真珠湾攻撃にも9・11事件にも共通しますね。翌1991年の湾岸戦争の“砂漠の嵐” 作戦は“ごろつき除去” の第1弾でして(“ごろつき除去”というとなんだかゴキブリの除去を思い浮かばせますが)、それから10年後の9・11事件以後のブッシュ・ジュニア大統領は、“ごろつき国家”に“悪の枢軸”という表現を付け加えているにすぎません。
いま、ざっとたどってきたアメリカの新軍事戦略の経緯から、9・11以後の“テロとの戦い”が“ごろつき”ないしは“ならずもの” ドクトリンの延長線上にあり、それこそが“第2の冷戦”を“終わりなき戦争”として継続する“永久戦争”のドクトリンなのだということを強調しておきます。ですから、アメリカの現在の軍事戦略をひとことで言えば、“終わりなき戦争”のドクトリンという“永久戦争”のドクトリンに帰着します。アメリカにとってはある意味でアルカイダやビン・ラディンが存在し続けることが必要なのです。
オバマ大統領がイラクからの撤兵と裏腹にアフガニスタンへの増派を進めていますが、このオバマの決定と政策を見て、わたしはアメリカの“終わりなき戦争”のドクトリンは、やっぱり変わらないと確信しました。これは肥大化した軍産複合体を誰も止められないことを意味すると同時に、21世紀前半にも顕在化し大問題となる石油の枯渇を睨んだ恐ろしい軍事戦略だからです。恐ろしいというのは、最後には石油と天然ガスの血で血を洗う争奪戦が予想され、それこそお得意の謀略の汚い手口を使ってでも、要するになりふり構わず、これらの希少化した鉱物資源を力でふんだくるため、世界の支配者として“永久戦争”をも辞さない、ということを意味するからです。

 

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 ここで、表3から2008年のデータで世界の軍事費のランキングを見てみましょう。アメリカは6070億ドル(1ドル100円として607兆円)でダントツの1位、世界の軍事費(1兆4000ドル)の42パーセントを占めています。1桁下がって2位の中国は849億ドル、ちなみに日本は世界第7位で463億ドル(つまり4兆6000億円)です。(表3)「世界の軍事費ランキング」/出典:ストックホルム国際経済研究所
表には示していませんが、2008年の世界の通常兵器の輸出契約額も、やはりアメリカがダントツの378億ドルで世界の68パーセントを占め、世界中に売り込んで兵器を拡散させています。まことに恐るべき軍事超大国というほかありません。

 イラク戦争に突っ込んだアメリカは、アメリカ国内でも国外でも“新帝国主義”とか“超帝国主義”といった論議を噴出させましたが、わたしもアメリカは史上に類例なき“軍事帝国主義”に支えられた“スーパー帝国主義”であると考えます。だが、アメリカの“スーパー帝国主義”は“軍事帝国主義”と同時に、これから取り上げる“通貨帝国主義”によっても支えられていることを見落としてはなりません。

 2 アメリカの財政赤字と借金帝国のからくり

 すなわち、アメリカは世界の軍事を独占しているだけでなく、世界の経済も牛耳っていまして、軍事超大国にして経済超大国でもあるわけです。表4の2007年のデータから世界の国内総生産(GDP)をみますと、アメリカの14兆ドルは世界(60兆ドル)の25パーセントつまり4分の1を占めています。ちなみに、2008年のアメリカの国家予算は2兆9000億ドルで、これを当時の1ドル120円で換算すれば348兆円となり、その当時の日本の国家予算の80兆円の4倍強に当たります。
しかしながら、アメリカ経済の実態は“火の車”でして、たとえば表4で見るように、アメリカは輸出額で中国やドイツに抜かれ、貿易赤字と財政赤字のいわゆる双子の赤字を抱えています。表5で分かるように、アメリカの貿易赤字の最大の相手国は中国です。つまり、中国はアメリカへの最大の輸出国ということですね。(表4)「主要各国の輸出額の推移」、出典:『読売新聞』(2010年1月29日)、並びに、(表5)「アメリカの貿易赤字の推移」、出典:アディスン・ウィギン/ケート・インコントレラ、楡井浩一訳『借金大国アメリカの真実』(東洋経済新報社、2009年)
1980年代のレーガン政権下でいったんピークに達した双子の赤字が、イラク戦争を推進したブッシュ政権のもとで再発し膨張しているのです。ブッシュ政権下の貿易赤字の増大はレーガン時代の比ではなく、2007年の貿易赤字の総計は7386億ドル(かりに1ドルを100円とすると73兆円強)です。この貿易赤字額は“何でも世界一”(アメリカ・アズ・ナンバーワン)を自慢するアメリカがダントツのトップですが、逆に世界一の貿易黒字国はご存知の中国です。
一方、財政赤字の方を見ますと、アメリカは“借金大国”とか“借金帝国”と言われますが、表4で見るように過去40年間ずっと赤字のタレ流しで、黒字はたったの5回です。1998年から4回の黒字はクリントン大統領の時代の成果で、クリントンが苦労して長年の赤字を黒字に逆転させたにもかかわらず、ブッシュがまるで“放蕩息子”のように、イラク戦費をはじめタレ流しの放漫経営で黒字を食い潰し、あまつさえ史上最大の借金を抱え込むことになったのです。(表4)「アメリカの財政赤字の推移」、出典:前掲ウィギン/インコントレラ『借金大国アメリカの真実』
表では示していませんが、アメリカの財政赤字は、昨年の2009会計年度(09年10月~10年9月)が1兆4171億ドル(128兆円)で過去最大でした。ところが、数日前の2月3日の新聞で報道されたオバマ大統領の予算教書によれば、2010会計年度はそれをもさらに上回る1兆5560億ドル(140兆円)と史上最大の財政赤字です。
こうしてみると、アメリカは文字通り“借金帝国”というか“ヤミの帝王”というほかありません。この急速な財政赤字の高騰は、むろんブッシュ政権時代からのイラク戦争のツケが大きく、これに金融危機対策としての公的資金の注入や不良債権の買い取りなども加わりますが、ブッシュはとんでもない“ドラ息子”というよりも“極道息子”ということになりますね。
アメリカ政府の会計責任者だったディヴッィド・ウォーカー元会計検査委員長が現在のアメリカは滅亡直前のローマ帝国と「おどろくほど似ている」と言っているのも意味深長です。ウォーカーは「われわれは癌の病を患っています」「それはわれわれの内部で増殖し、治療がなされなければ、わが国にとって破滅的結果をもたらしかねない」として、次のように警告しています。「アメリカにとって最も深刻な脅威は、パキスタンやアフガニスタンの洞穴に姿を隠している誰かではなく、自国の無責任な財政である」と。
ところが― 実にところがですが ― まるで逆転満塁ホ-ムランのように、アメリカは“ドル支配”という“打出の小槌”を使って、この膨大な財政赤字を補填する巧妙な資金調達のルートを開拓していたのです。それは表7に示しましたように、アメリカはドル建ての米国債を日本や中国やヨーロッパ諸国に売って、ドルを国内に還流するというやり方です。(表7)「米国債の発行によるアメリカのドル運用」、出典:講演者作成

 

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                   米国債の発行によるアメリカのドル運用


米国債というのはアメリカの財務省が発行する公債ですが、アメリカは世界の基軸通貨のドルを発行する権限をもつ唯一の国家という利点を利用し、ドル建ての米国債を各国の政府や中央銀行に押し付けて、その米国債の支払いによって得た還流ドルで、イラク戦争の戦費などを充当しつつ財政赤字を補填していっているのです。
たしかに借金とはいえ資金をいくらでも調達できるこの米国債は、他国にそれを強要するやり口からみても振り込め詐欺のようなものです。言うまでもないことかも知れませんが、増大するアメリカの国際収支の赤字、なんかんずく、財政赤字は朝鮮戦争やベトナム戦争に始まり、今日のアフガン戦争やイラク戦争へと至る、海外での軍事支出と戦争経済に由来していますが、金1オンス35ドルでの金とドルの交換の停止を宣言した1971年のドル・ショック以降、債権国ではなく債務国つまり借金国のアメリカがドル発行の権限を利用して、自国の膨大な赤字を補填する巧妙な仕組みをつくり上げたのです。
表9で2008年4月末の米国債保有高の国別一覧表を資料で示していますが、日本・中国・イギリス・石油輸出国機構・ブラジルといった順で各国が米国債を保有しています。この時点では日本が世界一の5922億ドルで、これに中国の5020億ドルが続いていました。だが、2008年9月末までには中国が日本に代わって世界最大の米国債保有国となり、2009年3月末には過去最高の7679億ドルに達しています。(表9)「米国債保有高の国別一覧表」、出典:別冊宝島『アメリカ大統領の陰謀&タブー事件史』(宝島社、2008年)
もちろん、一般の公債や債権がそうであるように、国債は売りに出して手放すこともできます。だが、米国債を保有している各国が一斉に ― いや、かりに一国でも大量の米国債を手放すという事態になると、アメリカは財政的に破綻し破滅せざるを得ません。そうなったら、アメリカとしては、超インフレによって米国債の価値を激減させる措置を取るしかありませんからから、米国債の保有国もいわば貯金が一夜にして紙クズとなって大損してしまい、アメリカも米国債の保有国も財政的に破綻する共倒れの結果となるでしょう。
たとえば、100万円を借りている債務者が債権者に借金を返せずにすむ方法は、その100万円を10万円とか1万円の価値に落とすことです。もし、これからお前がドル債権を大量に手放したり、あるいは増刷で発行させてくれないようなら、わしもすべてをチャラにしてお前たちの経済を友連れにして地獄に叩き込むぞとの脅しが効くのです。
実際、アメリカは外交ルートや金融ルートで、そういう脅しを有形無形に米国債の保有国にかけているのです。もし、外国の政府や中央銀行がアメリカ財務省発行の米国債を買わないとか、あるいは大量に手放したりするようなことにあれば、世界の金融も経済も破滅するし、アメリカも世界の破壊者として振舞うという脅しです。
アメリカのリーマン・ショックで顕在化した金融危機の衝撃を受けて、中国の当局者が米国債に懐疑的になって米国債の売却を検討したり、その動きに危機感を抱いたアメリカのオバマ大統領が、「中国などの“米国債離れ”は困る」と発言した、といったニュースが流れるのも、さらにはまた、日本の鳩山政権が東アジア共同体を提唱するのも、こうしたアメリカのドル支配からの脱却をにらんだ発言と理解することができます。
日本も中国もアメリカに脅しすかされ、大量の米国債を保有しているわけですが、いつ紙くずになるかも知れないような、やばい米国債を手放したい、というのがホンネです。1996年6月に日本の橋本首相が「米国債を売り出したいという誘惑にかられたことがある」と発言したとたんに、ニューヨーク・ダウが暴落したのはその一例です。
中国にとっても、アメリカはいまや最大の貿易相手国ですから、大量の輸出品をアメリカに引き受けてもらわねばならず、その引き換えに米国債を押しつけられて買わされているという、いうなれば持ちつ持たれつの腐れ縁なのです。この危険でデリケートなバランスがいつまで持つか。米国債の保有国の中国や日本と債務国たるアメリカの関係は、いわばブレーキなき暴走自動車に乗せられている乗客と運転車の関係に近いですね。この暴走自動車は世界金融の破滅という破局まで止められない。だからこそ、ドル支配から脱した通貨圏の構築が課題となるし、ユーロ通貨圏をもつEUに続いて、東アジア通貨圏をにらんだ東アジア共同体の構想も、こうした流れのなかから出てくる一つの選択肢と理解しなければなりません。
アメリカの経済アナリストのマイケル・ハドソンは、アメリカが自国の赤字をいかにして他国の中央銀行に転嫁して、その他国からドルを吸い上げつつ搾取する経済侵略的な手段に変えるか、といういま見てきた振り込め詐欺のような米国債本位制のシステムの本質を見破り、 “通貨帝国主義”とか“超帝国主義”と名づけて鋭い分析を加えました。
ところが、この米国債のからくりを暴いた『スーパー・インペリアリズム(超帝国主義)』という本が1972年に出ると、あわてたアメリカの政府機関が買い占めに走っただけではありません。この本の版権を買い取り翻訳を出版しようとした日本の出版社も、アメリカの圧力で出版を中止せざるを得なくなったと言いますから、アメリカが売り物にしている“自由と民主主義”とか“言論の自由”もメッキがはげてくる感じです。(注3)マイケル・ハドソン、広津倫子訳『超帝国主義国家アメリカの内幕』(徳間書店、2002年)
日本の経済アナリストの副島(そえじま)孝彦は、アメリカの言いなりになり米国債で金融的にアメリカに従属した日本の姿を、「日米の振り込め詐欺」「日米抱きつかれ心中」と呼び、対米従属からの脱却を提唱するとともに、米国債とドルの大暴落でこれから「アメリカ発の世界恐慌」がくると警告しています。そうした予測をもとに、副島孝彦はいずれドル暴落で世界恐慌に突入し、お札も株券も証券も国債もやがて紙クズになるのだから、いまのうちにゴールドの金つまり金地金を買っておくのが賢明だとして、どこでその金地金を買えるかという本まで出しているくらいです。(注4)副島隆彦『日米振り込め詐欺大恐慌』(徳間書店、2009年)、並びに、副島隆彦『副島隆彦の今こそ金を買う』(祥伝社、2008年)
日本は「日米の振り込め詐欺」「日米抱きつかれ心中」で危険な渕に立っているだけではありません。皆さんも新聞でちらと目にされたことがあるかと思いますが、実は日本自身が単独で莫大な借金を背負っているのです。表10に日本の債務残高の推移を挙げておきましたが、昨年6月の財務省発表のデータでは、国債と借入金を合わせた日本全体の債務残高は860兆円でした!日本の国民1人当たりでなんと674万円の借金です!!いま見ました国債と借入金の合計が国の債務残高の代表的指標とされているものですが、これに政府関係機関や特殊法人などが発行している債権で政府の保証が付与されている政府保証債を加えると、1兆円を突破し国民1人当たり860万円となります!!!(表10)「日本の債務残高」、出典:『日本海新聞』(2009年5月9日)の共同通信配信記事「国の借金846兆円」

 

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しかも、表11で見るように、国内総生産(GDP)に対する債務残高の比率は160パーセントを超えています。つまり、日本の借金はGDPの1.6倍以上で、先進諸国でもダントツのトップだということです。ごく最近の新聞によりますと、2010年度末には1・8倍に膨らむと報じています。(表11)「債務残高 対 国内総生産(GDP)、出典:『日本海新聞』(2009年5月9日)の共同通信配信記事「財政再建大幅先送り」
すなわち、日本はこれだけの莫大な借金を自ら抱えながら、果てしなく赤字国債を発行し続けています。2009年度の新規国債発行額は、麻生太郎ならぬ麻生足らんの言うミゾウユウつまり未曽有の44兆円です!しかも、さきに見てきたように、アメリカに抱きつかれて、他国の赤字の借金にまで付き合わされているのだから、情けないを通り越して、馬鹿としか言いようがない!!
いったい、このような莫大な借金をどうして返せるのでしょうか。返せるわけがない。ただ1つ窮余の一策はあります。ものすごいハイパー・インフレつまり超インフレで貨幣価値を激減させ、借金を棒引きして事実上チャラにしまうことです。 この”国債バブル”は必ずやはじけるに違いありません。
それがいつの時期なのかは、誰にも分かりません。ただ、このカタストローフつまり大破局が必ずやってくるであろうことだけは確実です。わたしには自分の親から聞いたいまだに忘れられない強烈な記憶があります。それは戦時中から戦争直後にかけての話ですが、わたしの兄貴たちの学資にとなけなしの貯金をコツコツと貯めていたのに、戦争に負けてそのなけなしの貯金の貨幣価値がなくなり、一夜にして貯金がパーになってしまたという苦い話です。わたしくらいの年代の方ならそれに類する話を聞かれたこともあるかと思います。いまのうちに金地金を買っておけという副島孝彦の勧めには一理あるとわたしは考えます。

 3 アメリカの世界支配に抗する脱米の国際的動向

 アメリカの世界支配がいかに危険で破局にしか行き着かないものであるかは、わたしが9・11事件とイラク戦争にみる軍事帝国主義の分析を通して、また米国債の運用による世界を巻き込んだ果てしなき詐欺商法まがいの通貨帝国主義の分析を通して示したところです。きょうはアメリカの軍事戦略と経済戦略の分析を中心に据え、あらましの話をさせていただいとところですが、実はアメリカの経済戦略については重要な問題を論じ残しています。
それは戦後世界の政治経済的な枠組みと構想を確定した1944年のブレトン・ウッズ協定以来(ブレトン・ウッズはアメリカのニューハンプシャー州北部の町で、ここに45カ国が参加して開かれた連合国通貨金融会議に由来しますが)、アメリカの金融が国際通貨基金(IMF)と国際復興開発銀行のちの世界銀行(WB)の2つの国際機関を支配し、いわば三位一体のかたちでアメリカの利益はちゃかり確保しつつ、世界の貧しい国を痛めつけ搾り取って進めてきた国際経済政策のことです。
このアメリカ主導の国際経済政策は、今日のグローバル資本主義のもとで新自由主義なる名前でもって流布していますが、新自由主義は市場至上主義の経済的綱領たる“ワシントン・コンセンサス”に集約されます。“ワシントン・コンセンサス”という言葉は、ワシントンDCにあるシンクタンク「国際経済研究所」(IIE)の研究員が1989年に発表した論文に由来し、要するにアメリカ財務省と結託したIMFや世界銀行を通して、「小さな政府」「規制緩和」「市場原理」「民営化」といった経済政策を世界中に押し広げようよいうものです。
日本の小泉構造改革や郵政民営化などは、まさにその流れのなかの典型の一つで、それがどういう結果をもたらしたかは皆さんもご承知の通りで、そのゆえに政変も起きたくらいです。世界の事例はもっともっと悲惨ですが、残念ながらきょうは時間の関係で紹介できません。
ひとつだけ言っておきたいのは、たとえば新自由主義の経済政策が貧しい国々で、失業者を増やし先住民をはじめ底辺層を困窮化させて、貧富の格差をいちじるしく拡大したりしたり、あるいはまた、アメリカが自ら膨大な赤字をタレ流す放漫財政を続けておきながら、その意を受けたIMFや世界銀行が経営危機に陥った貧しい諸国に緊縮財政を押し付け、それらの国々の経済を無茶苦茶に破壊してきたといったことが挙げられます。
のみならず、旧ソ連の崩壊に伴いロシアの資本主義への移行のため、“ショック療法”と称する急速な民営化と自由化をエリツィンに強行させ、一夜にして国有財産を掠め取ったオリガルヒなるマフィアの新興財閥が出現する一方で、多くの国民が貧困のどん底に叩き落されて、旧ソ連時代にもまして貧富の格差を拡大したのも、アメリカやIMFなど西側の顧問によるものでした。
実は、貧富の格差と言えば、新自由主義の震源地のアメリカこそ世界でも最大の格差社会ではないでしょうか。表12に示したグラフを見てください。人口わずか1パーセントの富裕層が保有する資産がべらぼうに高く、1995年で40パーセントに近いというデータです。(表12)「アメリカの人口上位1パーセントが保有する資産」、出典:デヴィッド・ハーヴェイ、渡辺治監訳『新自由主義』(作品社、2007年)
最高経営責任者(ECO)と労働者の給与の平均値の比率は、2000年でなんと500対1です。つまり、最高経営責任者は労働者の500倍の給料をもらっていることになります。ブッシュ政権のもとでこの比率がさらに拡大し、上層部への所得と富の集中がますます進んだと言われています。
それだけではありません。アメリカの富裕層は高い壁と電子警備装置と警護門付きの民間高級団地に住んでいますが、これはアメリカの刑務所をちょうど逆さまに映すようなものです。アメリカの犯罪率はきわめて高く、1997年にはアメリカの成人男子50人につき1人が刑務所におり、20人につき1人が保護観察中か仮釈放中だったということですから、それこそアメリカは牢獄社会そのもです。いったい、アメリカの自由で平等とは、こうした圧倒的な非対称ないしは極端な格差、それも、貧困層を刑務所に閉じ込めていなければ秩序が保てない社会のことを言うのでしょうか。灯台もと暗しとはこのことです。
いずれにせよ、イラク戦争への批判もあいまって、つまり経済と軍事の両面で、アメリカの世界支配に対して全世界で脱米ないしは反米の潮流が台頭してきたのは当然の成り行きです。表13はこれまでアメリカが自分の裏庭のようにみなしてきた中南米で反米旋風が吹き荒れていることを示すものです。(表13)「中南米の反米旋風」、出典:『朝日新聞』(2006年12月6日)の「中南米 左派熱風」
周知のように、1959年にゲリラ戦争で革命に成功したカストロのキューバだけでなく、近年になってベネズエラのチャベス大統領がアメリカに反旗をひるがえし、これに続いてボリビア・エクアドル・ニカラグア・エルサルバドルで反米左派の大統領が誕生し、ブラジル・ウルグアイ・アルゼンチン・ペルーで中道左派の政権が成立しています。表13は2006年の時点の動向ですが、この地図でベネズエラとエクアドルの間にあるペルーは「親米右派」となっていますが、その後このエクアドルでも「中道左派」の政権が誕生しました。
これに関連して、昨年12月にアメリカ主導の米州機構(OAS)とは別の枠組みで、アメリカをはずした中南米諸国の首脳会議がブラジルで初めて開かれ、中南33カ国の地域機構の「中南米カリブ連合」をことし中に創設することが合意されました。わたしが今回の著書で取り上げたアメリカ新大陸の略奪が、コロンブスのカリブ海域への航海とともに始まったことを思うと、これはまことに重要かつ象徴的な出来事と言うほかありません。

 4 対米従属からの脱却を課題とする日本

 さて、ここまで話してくれば、わたしがきょうの講演のテーマに取り上げた『アメリカの世界支配と対米従属からの脱却』の言わんとする意味が理解していただけると思います。つまるところ、軍事にせよ経済にせよ、世界を破局に導きかねないアメリカの世界支配は、グローバルなタイタニック号みたいなもので、わたしたちはこのタイタニック号の道づれになるのではなく、米一極主義から多極主義へと大きく舵を切らねばならない。だからこそ、いま世界では脱米ないしは反米のうねりが起きていますが、日本も対米従属からじょじょにでも脱して、自立した外交政策を追及すべき時期にきています。
そもそも、日本の対米従属政策は敗戦による日本の占領統治と朝鮮戦争とともに始まったものですが、もうそういう時代ではないことをはっきりと認識しなければなりません。長年、対米従属一辺倒できた自民党長期政権の崩壊でようやく対米従属を見直す機会が訪れたのは喜ばしいことです。
いま、日本の政界やマスコミは小沢一郎の政治資金の問題を賑やかに取り上げています。たしかに、小沢一郎は田中角栄直系の金権政治家であるとはいえ、日本の対米従属からの脱却という観点からは、まっとうな政治家の1人と言えるかも知れません。なぜなら、小沢一郎はかねてから「普通の国になれ」と主張していましたが、この普通の国は一方的な対米従属からの脱却の意味も含んでいるからです。
たとえば、民主党の代表だった昨年2月、小沢一郎がクリントン国務長官と会談したさい、「日米関係は従属的であってはならず、対等なパートナーシップでなければならない」と伝えたのも、それを裏づける発言といっていいでしょう。この発言はさすが外国の通信社、ちゃんと世界に伝えています。
だからこそ、3月にはアメリカのCIAの謀略部隊が日本の検察庁を使って、小沢一郎に攻撃を仕掛けてきたのだ、と指摘する人もいます。これは「日米振り込め詐欺」を批判している副島(そえじま)隆彦が書いていることです。
その真偽はともかく、民主党になって外交政策なかんずく日米関係に、どのような目に見える変化がもたらされるか、そこに民主党の試金石がある、とわたしはきょうの講演の冒頭で話しました。鳩山政権になってから岡田外相のもとで、国民を長年騙してきたいわゆる〝核の密約〟の調査を開始し、その調査結果を公表すると言っているのは、そうした目に見える変化の1つで、評価できることだと思います。
鳩山首相が「東アジア共同体」を提唱したのはいいのですが、その「東アジア共同体」にアメリカは含まれないとする岡田外相の発言に対して、鳩山首相はアメリカも含まれるようなことを言って、「東アジア共同体」と日米同盟の間で揺れているように思われます。この「東アジア共同体」にも割り込み、何にでも顔を突っ込んで覇権の維持をはかりたいアメリカの心意は見え見えとはいえ、金融危機や米国債の問題で世界がドル支配からの脱却を迫られている現在、「東アジア通貨圏」の構築を視野に据えるべき「東アジア共同体」に、アメリカが加わるなどという話はもってのほかです。
沖縄の普天間基地の移設問題を自民党政権の踏襲でなく、またアメリカが何と言おうと、新たに見直して再検討するのも当然です。はっきり言って、戦後の日本は沖縄の基地を踏み台に、日米同盟の枠組みに依拠して経済発展をとげてきたわけで、踏んだり蹴ったりの沖縄の犠牲をカヤの外に置いて、いつまでも沖縄の基地を容認することは許されない、とわたしは考えます。(表14)「普天間の移設先候補地」、出典:『朝日新聞』(2010年1月16日)の「普天間『移設先』乱立」
去る1月24日の名護市の市長選挙で、米軍普天間基地の名護市の辺野古のキャンプ・シュワブに移設する現行計画をめぐって、この移設に反対する民主党などの推薦する稲嶺進氏が、移設推進派の自民・公明推薦の島袋吉和氏を破って当選しましたね。
わたしも30年以上前のことですが、沖縄旅行のさい名護市の知り合いを訪ねたことがありますが、あの美しい沖縄の海を壊してまたぞろ米軍の基地を新設するのは、いい加減にしてほしいという気持です。表14は『朝日新聞』に出ていた普天間基地の移設先候補地の地図ですが、民主党の鳩山政権がいま検討中の普天間問題で、それでもやっぱり現行計画の名護市の辺野古しかないといった自民党先祖返りのような結論を出したら、わたしはもう日米関係以外でも民主党に一切期待しません。(表14「普天間の移設先候補地」参照)
民主党の新政権がインド洋での自衛隊の給油活動を停止し、ついこのあいだた1月16日に撤収を開始したのも、わたしは賢明な措置だと思います。なぜなら、この給油活動への自衛隊の派遣は、米軍の戦争に加担する行為で、その根拠法の新テロ対策特別措置法ともども、憲法違反の疑いもあるからです。
まるでアメリカの属国であるかのように、アメリカが何か言えば、「ハイ」と答える。脅されれば、ヘイコラ従う。アメリカが風邪を引けば、日本も風邪を引く。また、アメリカが熱を出せば、日本も熱を出す。
ブッシュが世界の世論を無視してイラク戦争を起こせば、小泉が早速シッポを振ってワシントンに飛んで行き、まるでブッシュの愛玩動物でもあるかのように、「可愛い可愛い、ホンコホンコ」と頭をなでられ、「ブッシュのポチ」「ブッシュのパンダ」役を演じて悦に入る ・・・ イエスマンをはるかに通り越して、まるでアメリカの召使いか奴隷のような卑屈な日本の首相や外交の姿勢には、それこそヘドが出る思いで恥ずかしい限りです。
戦後から60年以上も経った現在でも、日本の首相や政権のアタマはほとんど変わらず、敗戦直後の占領統治や冷戦時代の精神構造を、いまだに引き摺っています。いや、実は、日本の首相や政権のアタマだけではない。日本のマスコミも旧態依然の対米従属で、それこそ報道の姿勢がどうかしています。
イラク戦争と金融危機の衝撃を受けて、いま世界は米一極主義から多極主義の方向に歩み始めていますが、これに呼応して民主党政権が誕生し日米関係を見直そうというとき、マスコミは鳩山政権の外交方針にイチャモンをつけています。いわく、「アメリカが怒っている」「日米関係がおかしくなる」と。アメリカの属国ならいざ知らず、いやしくも独立した対等の国家どうしならば、軋轢や緊張が生じるのは当り前であって、それを調整・解決するために外交交渉というものがあるはずです。
いったい、日本のマスコミはいつからアメリカのマスコミになったのか。どうして、政権が変わったのだから、日米関係をしっかり見直せ、という新聞や論調がひとつもないのか、不思議というほかありません。

 

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