講演録

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土井淑平 講演
「アメリカの世界支配と対米従属からの脱却
― イラク戦争と金融危機の衝撃を受けて ― 」

目次

 

◇ 2010年1月31日  鳥取市の白兎会館にて
       2月 7日  米子市の今井書店「本の学校」にて  
◇ 講演者:土井淑平
◇ 主 催:土井淑平講演会&出版記念会発起人会

 

 本稿は土井淑平著『アメリカ新大陸の略奪と近代資本主義の誕生 ― イラク戦争批判序説 ― 』(発行=編集工房 朔、発売=星雲社)の出版を記念して、2010年1月31日に鳥取市で、また2月7日に米子市で行なった講演をもとに、時間の関係により講演では省略した部分を補足したものです。

 

 

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                                講演風景

 

 

 序 世界と日本の変化のきざし

 一 9・11事件とアフガン・イラク戦争
1 「真珠湾攻撃にも似た破局的な触媒となる事件」
2 金太郎の腹掛けのようなアメリカの本土防衛
3 国際法に違反したアフガン戦争とイラク戦争
4 アメリカの新軍事戦略としての“テロとの戦い”

 二 世界を震撼させたイラク戦争と金融危機
1 イラク戦争の本当の敗者はアメリカである!
2 イラク戦争で破壊された国土と奪われた人命
3 イラク戦争で膨大な借金を背負い込んだアメリカ
4 金融危機の影の車を押したイラク戦争

 三 アメリカの世界支配と対米従属からの脱却
1 アメリカの軍事基地と軍事戦略のあらまし
2 アメリカの財政赤字と借金帝国のからくり
3 アメリカの世界支配に抗する脱米の国際的動向
4 対米従属からの脱却を課題とする日本  
結び 殺りくの世界から脱出する道

 

 

 

序 世界と日本の変化のきざし

 

 アメリカではイラク戦争を強行した共和党から民主党へと政権が移り、黒人出身のオバマが大統領になりました。一方、日本でも半世紀以上続いた自民党政権が倒れ、民主党政権が成立するという政変が起きました。このような内外の変化のきざしは歓迎すべきことだとわたしは思います。
日本の自民党政権の崩壊は、旧ソ連崩壊の日本版ともいえます。一方は自由民主主義を標榜し、他方は社会主義ないしは共産主義をうたっていましたが、いずれも一党独裁or一党支配下の政権の崩壊だったという意味では共通します。
しかも、旧ソ連の崩壊が資本主義の社会主義に対する勝利をなんら意味するものではなく、ソ連型の国家社会主義の自壊でしかなかったように、自民党政権の崩壊も民主党の優秀さによるものではなく、いわばだらだらと続いた長期政権の自壊 以外のなにものでもなかったと言えるでしょう。
要するに、旧ソ連の民衆が一党独裁下の共産体制はもうこりごりだと考えたように、日本の国民も自民党の長期政権はもううんざりだと考えたわけで、なんでもいいからとにかく自民党でない政権に代わってもらいたい、というのがさきの選挙における国民の選択だったと思います。
むろん、自民党も小泉政権から安部→福田→麻生と、選挙の洗礼も経ない自堕落な政権内のたらい回しで、だんだんメッキも剥げ落ちてゆき、ついに底をついて地が見えたということはあります。皮肉にも、麻生ががんばって、自民党の掛け値のない地(ジ)を白日のもとにさらしたことを、わたしは反語的に評価したい。そのようななかで、自民党に代わる民主党という受け皿があったのはとりあえず幸いでした。
わたしが日本の政権交代でもっとも注目しているのは、日本の外交政策が変わるかどうかです。むろん、内政面でも脱官僚とか事業仕分けによる無駄の洗い出しなど重要な問題はありますが、1945年の太平洋戦争敗北による占領統治以後、アメリカ一辺倒できた対米従属の外交政策に、多少とも目に見える変化がもたらされるかどうかに民主党政権の試金石があり、なかんずく、沖縄の普天間基地の移設問題で鳩山政権はカナエの軽重を問われていると考えます。この問題は最後に取り上げますが、きょうの話は世界の動向から始めます。
21世紀初頭の世界はイラク戦争と金融危機に震撼されたといっても過言ではありません。わたしがこのたび著した『アメリカ新大陸の略奪と近代資本主義の誕生』は「イラク戦争批判序説」のサブ・タイトルを付けましたように、イラク戦争にまで至った米一極主義を欧米中心史観の根源にまでさかのぼって、徹底的に批判するために書き下ろしたものです。
きょうはわたしの新著を踏まえて、アメリカの世界支配と国際情勢について、わたしが考えていることをかいつまんでお話し、日本の占領統治以後のアメリカ一辺倒の対米従属政策からの脱却を課題として提案したいと思います。
手前味噌で言うわけではありませんが、わたしの新著はイラク戦争以後つまりここ10年、イラク戦争に関してはもとより、歴史と政治の領域を扱った日本人の著作としては、もっとも焦点深度の深い重要な著作の一つであると自負しています。
この著作のなかでわたしは、もともとコロンブスの航海の背景をなすヨーロッパ世界とイスラム世界の歴史的関係はどのようなものだったかから説き起こし、コロンブス以後のヨーロッパ人によるアメリカ新大陸の略奪によって近代資本主義が誕生しただけでなく、西欧近代思想もアメリカ新世界の衝撃を抜きには語れない、ことを明らかにしました。
しかも、アメリカ合州国は親殺しに相当する先住民せん滅のインディアン戦争の血の落とし子だったのであり、9・11事件を引き金とするアフガン戦争やイラク戦争は、インディアン戦争の地球規模の延長もしくは拡大である、というのがわたしの『アメリカ新大陸の略奪と近代資本主義の誕生』のもう一つの重要なメッセージです。
なにしろ大部な本ですので読むのが大変かも知れません。わたしはそれぞれ興味を引く章だけでも拾い読みしてもらえばと思いますが、まずイラク戦争に関連してアメリカ合州国を批判した序論と終章を読まれることを、皆様にお勧めします。それによって、わたしの執筆の意図ないしはモチーフとテーマが理解してもらえる、と考えるからです。
わたしが『アメリカ新大陸の略奪と近代資本主義の誕生』を執筆した動機は、国連や国際世論に背を向けて、国際法違反のアフガン戦争とイラク戦争を強行した、アメリカの米一極主義と国際秩序の破壊への根本的な批判です。金融危機については序論でちょっと言及しただけですが、きょうはこの金融危機もイラク戦争と無関係ではないということを申し上げるつもりです。

 

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