講演録

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土井淑平 講演
「アメリカの世界支配と対米従属からの脱却
― イラク戦争と金融危機の衝撃を受けて ― 」

目次

 

結び 殺りくの世界から脱出する道

 

 さて、そろそろ時間になりましたが、わたしがきょうの講演で申し上げたかったことは、史上に類例なき強大な軍事と経済に立脚した― さらに言うとアメリカ型の大衆消費文化の圧倒的な波及力と浸透力が加わりますが ― いずれにせよ、 アメリカの世界支配は地球のタイタニック号のようにきわめて危険なものであり、世界も日本もタイタニック号とともに沈没することを回避するためには、脱アメリカないしは対米従属からの脱却が必要だということです。
それもいわゆるテロとか戦争では解決できません。いわばドラキュラと逆向きに、アメリカの血を吸うのではなく、あらゆる領域でじょじょに、アメリカの血を抜いていくことだと思います。
たとえば、日本でいうと米軍基地をできる限り抜いていく、経済の面でもユーロ通貨などと並んで東アジア通貨圏をつくって、危険なドル支配や米国債への従属をじょじょに断ち切っていく。
きょうはお話できませんでしたが、いわゆる“テロ”の問題はアメリカ自身の“国家テロ”と表裏一体ですから、大胆で賢明な世界の平和共存のシステムをつくっていく以外に解決の方法はありません。アメリカが世界を支配すべく突出した軍事力を振りかざして“国家テロ”を拡大していく限り、それに対抗する“テロ”ないしは“対抗行動”は止むどころか、むしろますますエスカレートせざるを得ないでしょう。
その点で、わたしは十字軍戦争を終わらせた1229年のヤッファ協定に皆様の注意を喚起したいと思います。これについてはわたしの『アメリカ新大陸の略奪と近代資本主義の誕生』の第一章の第4節を参照して下さい。
このヤッファ協定は、当時の神聖ローマ皇帝のフリードリッヒ2世とエジプトのアイユーブ朝のスルタンのアル・カーミルとの間で結ばれたものです。「ムスリムびいき」と揶揄されたフリードリッヒ2世は、「13世紀の世界の驚異」とも言われるほどの驚異的な人物でしたが、十字軍戦争で一兵も動かさず、アル・カーミルとヤッファ協定を結んで、ローマ教皇から破門されました。一方のアル・カーミルもこのヤッファ協定のために、イスラム世界からごうごうたる非難を浴びました。
しかし、わたしは血で血を洗う混沌たる今日の殺りくの世界から脱出する一つのヒントがここに隠されていると考えるものです。すなわち、国際社会の緊張や紛争は、武力行使によってではなく、平和的な交渉によって解決すべきだということです。
そのさい、現代において準拠すべきは、国連憲章を最高の規範とする国際社会の法ないしは国際社会のルールである国際法です。なかんずく、国連憲章の人民の同権と自決の原則(第1条2)は、武力行使禁止原則(第2条4)と並んで、国際法の2つの柱と言えます。このうち、武力行使禁止原則について2つの例外がありますが、さきにイラク戦争を国際法違反とする判断の根拠として、2つの例外にも該当しないと指摘した通りです。
きょうは時間の関係で核の話はできませんでしたが、オバマ大統領の「核のない世界」は、いわば口当たりのいい空中楼閣のようなタテマエ先行の演説であって、アメリカをはじめ核保有国は新参入の候補たる北朝鮮やイランを叩く前に、まず核保有国自らが核廃絶の具体的な道筋を示し、それを目に見えるかたちで実行に移す以外にありません。
周知のように、ブッシュ前大統領は核先制使用もあり得ると公言して、世界を驚かせました。きょう2月7日の新聞は、ロシアのメドベージェフ大統領が、核戦力を引き続き国防の中核と位置づけ、核兵器以外の大量破壊兵器や大規模侵攻に対しては核先制使用も辞さない、とする新軍事ドクトリンを承認したと伝えています。(記事2)『山陰中央新報』(2010年2月7日)のモスクワ発共同電「NATO拡大、MDが脅威 米をけん制 新軍事ドクトリン承認」
米ソの両核超大国が核を最後の切り札に世界を脅している限り、これでは核を持たないとやられちゃうというわけで、新たに核保有をめざす新参入の候補が後を絶たないのも、当然ではありませんか。しかも、アメリカに従うならイスラエルやインドのように核保有は黙認するが、アメリカに反旗をひるがえすイランや北朝鮮の核保有は認めない、といった“ガキ大将”の論理は道理としても通用するわけがない。
国連の安全保障理事会を構成する核保有国も、自分たちの核優位だけは既得権としてちゃっかり保持して、新たな参入国に対しては共同戦線を張って阻む方向で動いているわけですね。わたしはこれら核保有国が国連安保理および国連総会の場で、まず核先制使用は絶対にしないと相互に確認して世界に宣言し、自分たちの核廃絶への具体的な第1歩を明らかにする以外に、オバマのように「核のない世界」を口にするのもおこがましいと考えるものです。

 

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                            ゲバラバンドの演奏

 

(追記)講演で使用した図表はごく一部を除いて本HPには掲載していません。関心をお持ちの方は出典を参照して下さい。

(補足)2010年2月7日付『朝日新聞』のモスクワ電「核使用条件を維持/ロシアが新国防指針」は、ロシアのメドベージェフ大統領が10年ぶりに改定となる新軍事ドクトリンを承認したが、そこには通常兵器でも国家の存在を脅かすような侵略を受けた場合には核兵器を使う権利を持つと明記し、核先制使用の権利は旧ドクトリンを踏襲するかたちになったと伝えています。
一方、3月3日付『日本海新聞』のニューヨーク発共同電「核兵器数千発削減へ/先制不使用宣言は拒否」は、オバマ米政権が策定中の8年ぶりの新核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」について、核兵器数千発の恒久的な削減を盛り込む一方で、「核兵器の先制不使用」宣言は拒否する見通しだと伝えています。わたしが講演で指摘したことへの否定形の応答がさっそく表明されているではありませんか!
まさに、ここにこそ、オバマ米政権の核政策の本質が表現されており、プラハ演説の「核のない世界」がいかに口当たりのいいリップ・サービス以外の何物でもないか、を露呈したものと言えます。共同電によると、削減される核兵器は退役予定の老朽化した核弾頭だそうですが、そんなものは米国にとってもお荷物であるばかりか、そもそも数千発もの核兵器などいるわけがありません。
おなじ3月3日の『日本海新聞』に掲載されている共同通信の「世界に聞く/NPT40年」3「イラン安全保障・外交委員会カゼム・ジャラリ委員」で、カゼム・ジャラリ委員は、米国などがイスラエルのような核拡散防止条約(NPT)の枠外で核兵器を保有するに至った国を黙認しながら、NPTの枠内にとどまっているイランに経済制裁を科すのは不当だと批判していますが、これは米国のいわゆる二重基準(ダブル・スタンダード)の矛盾(泣き所)を突いた正当な指摘です。

 実際、4月6日に発表されたアメリカの「核体制の見直し(NPR)」は、やはり核兵器の先制不使用宣言を見送り、NPTを順守する非核保有国には核攻撃しないが、NPTに反するイランや北朝鮮には核攻撃もあり得るとしています(4月7日付「朝日新聞」など参照)。

 講演でも指摘したように、NPTの枠外にいるイスラエルやインドといった友好国は、アメリカという”ガキ大将”に付いて来るので核の保有を不問に付すが、自分に逆らうイランや北朝鮮は許さんぞと脅しをかけているわけで、ここには核超大国の傲慢さが如実に表れています。

 

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