講演録

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 土井淑平 講演 
『アメリカの世界軍事戦略と沖縄普天間基地の移設問題』

目次

 

 ◇2010年6月13日 松江市のスティックビル5階会議室
 ◇講演者:土井淑平
 ◇主催:土井淑平松江講演を開催する会

 

 本稿は2010年6月13日に松江市で行なった講演をもとに、時間の関係により講演では省略した部分を復元し補足を加えたものです。

 

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                                     講演風景

 

 

                     講演目次

  序 辺野古回帰案は必ず潰れる
  一 沖縄のアメリカ海兵隊は抑止力として不可欠か?
   1 時計の針を逆さに巻き戻しアメリカにヒレ伏した鳩山前政権
   2 冷戦終結で時代遅れとなった日米同盟と在日米軍
   3 グローバルな米世界戦略の前進基地となった沖縄
   4 普天間基地の移設問題と沖縄海兵隊のグアム移転計画
  二 アメリカの軍事帝国主義と世界軍事戦略のあらまし
   1 アメリカの帝国主義的海外膨張と欧米列強の太平洋分割
   2 アメリカの軍事戦略と石油戦略は表裏一体
   3 アメリカの軍産複合体と全世界の米軍基地
   4 在日米軍と沖縄基地の組織と配備
  三 琉球処分と沖縄民衆の闘い
   1 鳩山前政権の辺野古回帰案は琉球処分の最新版
   2 沖縄返還による米軍基地の維持強化と生活破壊
   3 対米追従の地位協定による治外法権の米軍特権
   4 日米安保の破棄と米軍撤退を目指して
  補足 関連する問題に寄せて
   1 大阪府の橋本知事の発言について
   2 ヘビに睨まれたカエルのごとき日本の政治家たち
   3 普天間移設とグアム移転を考える本

   4 2大政党制か多党制か、それとも第3の道は?


 

 

序 辺野古回帰案は必ず潰れる

 

 わたしはことし初め発売の新著『アメリカ新大陸の略奪と近代資本主義の誕生 ― イラク戦争批判序説 ― 』(発行=編集工房 朔、発売=星雲社)の延長上といいますか応用編として、1月と2月に鳥取と米子で「アメリカの世界支配と対米従属からの脱却 ― イラク戦争と金融危機の衝撃を受けて ― 」というタイトルで講演を行ないました。
 その内容はトリックスター工房のホームページ(講演「アメリカの世界支配と対米従属からの脱却」)に全文掲載しているので、みなさまもご覧いただけます。きょうはお配りした講演資料の目次に沿って、そこに掲げた図表に目を通しながら、このところ連日のように新聞・テレビを賑わせてきました沖縄普天間基地の移設問題を取り上げ、もう一歩踏み込んで考えてみたいと思います。
 さきの鳥取と米子の講演で、わたしは自民党から民主党への政権交代でもっとも注目しているのは、これまでアメリカ一辺倒できた対米追従の外交政策に、多少とも目に見える変化がもたらされるかどうか、そこに民主党政権の試金石があり、なかんずく沖縄普天間基地の移設問題で鳩山政権はカナエの軽重を問われていると申しました。
 それでもやっぱり現行計画の名護市の辺野古しかない、といった自民党先祖返りのような結論が出たら、わたしはもう日米関係以外でも民主党に一切期待しないとも申しました。それから4カ月後のわたしの判定結果は、遺憾ながら民主党は完全に落第だというものです。わたしはこれから民主党政権のやることなすことには、期待どころか眉に唾をつけて見ていく考えです。せっかくの政権交代の代わり端に対米追従の外交政策が再確認されたわけですから、アメリカに対する日本の属国状態はいつ果てるともなく続くと考えざるを得ません。
 実際、この民主党政権の試金石ともいうべき普天間の移設問題は、「国外、最低でも県外」をうたって政権についた鳩山前首相が、8カ月の迷走のすえ5月28日に辺野古移設の日米共同声明を発表し、これに合わせて辺野古回帰案を閣議決定したばかりか、これに反対して署名を拒否した社民党の福島瑞穂・消費者担当相を罷免し、とんでもないドタバタの大逆転劇で終わりました。
 まさにお坊ちゃまのハトがタカに豹変した瞬間ですね。この閣議決定の前日には、あくまで「県外・国外」を目指すべきだ、という勢力の署名集めが与党内で始まっていたことを考えると、これは署名潰しの大弾圧でもあったと言えます。いずれにせよ、かねてから問題の政治とカネに普天間の〝とんでも〟決着が決定打となって、支持率が急落し鳩山が政権を投げ出すというお粗末なおまけまでつき、菅直人が民主党の代表となって首相に就任したことは、みなさまもご承知の通りです。
 しかし、菅代表は代表就任の記者会見で、「国と国の合意は踏まえる」と辺野古移設の日米合意の見直しを否定し、首相就任の直後にはオバマ米大統領と電話で協議して日米合意を守る意向を伝えています。菅首相は鳩山政権を引き継ぐと言っていますが、クサイものにはフタをして、都合のいいところだけ引き継いでもらっては困ります。政治とカネで脛に傷を抱えた小鳩の退陣で、民主党政権は人気を回復するかも知れませんが、政治とカネの問題では小沢をある程度遠ざけたのだから、沖縄の普天間問題は勘弁してくれというわけにはまいりません。
 なぜなら、鳩山を退陣に追いやった最大の理由は普天間問題だったわけですから、これをゼロ・ベースから仕切り直しすべきは当然のはずです。にもかかわらず、この難題は前政権の日米合意で決着がついた問題だとして、あとは沖縄の負担の軽減に取り組むとの逃げ口上で頬かむりしてやり過ごすならば、まことにずるく不誠実な政権というほかありません。それは菅直人のクーデターともいえる政権交代の「空白の1週間」のトリックで、かつて読売巨人軍がドラフト破りをして、江川卓を獲得する口実に使った「空白の1日」の再現ではありませんか。読売巨人軍がドラフト破りの「空白の1日」のトリックで江川獲得を強行したように、管直人は「空白の1週間」のトリックで日米合意を既成事実化しようとしたわけです。  
 さっそく、北沢俊美防衛相は菅政権発足直前の6月5日、シンガポールでアメリカのゲーツ国防長官と会談し、さきの普天間移設に関する日米共同声明を菅新首相率いる新内閣でも踏襲する方針を確認しています。新内閣の菅も再任された北沢も岡田克也も、鳩山政権のもとで日米合意の閣議決定に同意した閣僚であってみれば同じ穴のムジナにすぎず、社民党の代表でもある福島瑞穂消費者担当相というたった1人の大臣を除けば、すべてが共犯のグルだったと言うしかない。この人たちは日米合意だけは錦の御旗のように強調するが、いったい肝心の沖縄や日本の国民はどこに行ったのでしょうか。
 およそ政権が交代しても、重大な政治課題たる対米追従の外交方針は何ら変わらないことを示したという意味で、菅直人の民主党政権は自民党政権の衣裳替えにすぎず、日本の政党政治とマスコミの絶望的な貧困ぶりをさらけ出したと言わざるを得ません。
 いったい、菅直人に何を期待できるのか。そうは言っても、かれが日本の守旧の政治を「変革」してくれるのでは?いや、むしろ、菅直人こそ第2自民党の保守本流ないしは保守新流かも知れないのです!小泉純一郎だって「改革」を旗印に人気を博しましたが、やったことは内にあって経営者のご機嫌をとって労働者や生活者を痛めつけ、外にあってはブッシュ政権のポチ役でイラク戦争に協力したことくらいでした。歯が浮くようなコトバだけの「変革」や「改革」はもうウンザリです。
日米合意による辺野古回帰案の“とんでも”決着は、決して言うところの“決着”にはなり得ません。ことし1月の名護市長選で辺野古移設反対派の稲嶺進が当選したことは周知の通りです。3日前に発売された雑誌『世界』(7月号)で沖縄タイムズの渡辺豪が書いているように、「「辺野古回帰」という泥舟に乗った鳩山政権」の先行きは限りなく暗い。だいいちに、辺野古回帰案は実現不可能で必ず潰れる、沖縄の民衆がこれを決して許すわけがないからです。
 わたしは今回の辺野古回帰案も徳之島移設案も、琉球処分の最新版と考えますが、もしこんどの参議院選挙で沖縄の民意も了解も無視して、「空白の1週間」のトリックで“初めに日米合意ありき”と開き直っている菅直人の民主党が大勝するとしたら、日本国民全体がこの琉球処分を容認したとみなして、日本国民全体に琉球処分の責任があると認識し自戒すべきだと考えます。(追記ーだが、世論調査の祝儀相場で図に乗った管直人が、「空白の1週間」のトリックに続いて、いわばドサクサまぎれに、衆院選の公約破りの消費税増税を打ち出し、人気が急落し大勝どころでなくなったのは、当然といえるでしょう ) 

 

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